2010/02/23 (Tue) 10:49
僕が見上げた天井は、屋上から見えた果てしなく青い空ではなく、ただ白かった。
其処に横たわっていた自分の身体を起こし、辺りを見回せば其処が一目で保健室だと認識できた。
「佐倉が運んだんだろうか?」
時計に目をやり時間を確認する――丁度五時間目の授業が始まった辺りだろうか。
自分の意識はそれほど長い間、あの場所にあったわけではないらしい。
僕はベッドから降りると何気なく、校庭に面した窓へ向かう。
窓は軽く開けられ、其処から吹き込む風にカーテンがなびいていた。
「憂……」
僕は口にしようとした言葉を飲み込み、言葉を改めた。
「空って……、こんなに綺麗だったんだ……」
僕が今まで見上げてきていた空はなんだったんだろう?
空を見る度こみ上げてきた、あの不快な感情はなんだったんだろう?
今まで自分の見ていたものの全てが、偽物だったような感覚。
僕はその空の美しさに、ただただ感嘆とするばかりだった。
そして次に地上へと視線を戻す。
「くっ……」
不意に脳内に響くノイズ。
色彩に溢れていたはずの景色は急激に色を失いモノクロになる。
「っ……、うぁっ……」
脳内に響くノイズは徐々に音量を上げ、それに比例するように痛みを増してゆく。
「なんだ……、これ……」
ノイズは止まない、無駄だと理解しながらも僕は両の耳を塞ぐ。
やはりその行為は意味をなさなかった。
―――頭が割れる
―――脳が浸食される
―――視界から色が消えた
―――もう何も見えない……
僕はあまりもの痛みに耐え切れずその場に倒れこむ。
痛みにうめく声すら出せない、成す術もなく、それが意味をなさぬ行為だと理解しつつも僕は耳を塞ぐ。
止まないノイズに抗う為に、自分に残された最後の手段にすがるようにしてうずくまる。
『このままノイズが止まなかったら僕は死ぬんじゃないか?』
死を予感したその時、視界の端に空が見えた。
その空だけは灰色の視界の中、確かに青かった。
「あれ?」
すると途端にノイズが止み、脳を蝕んでいた痛みも消える。
「ノイズが消えた……、痛みも無い……」
僕は耳を塞いでいた手を離すと、保健室の床の上で大の字になり、
白い天井を見上げながら、その視界の端に青い空を収めていた。
「何で空を見ると痛みが引くんだろう?」
「それはね、この空がこの地上ほど汚されていないからだよ」
彼女は音も立てずに、いつの間にか僕の顔を覗き込むようにして傍に立っていた。
彼女とは夢の中―アレを夢と呼ぶのか定かではないけれど―であった少女の事だ。
名前を零華という。
「大丈夫?」
「今は平気だけど……。
大丈夫、とは言いがたいかな……」
その原因は言うまでも無くあのノイズだ。
「灰色が聞える?」
「ハイイロ……?」
「灰色って言うのはね、あなたが今見ていた景色の事、そしてあなたの感じていたノイズのこと。
この世界は本当はモノクロなんかじゃなくって、色彩で満ちているはずなんだよ……。
今あなたが灰色を感じられるのは、私があなたに与えた力の副産物。
力というのはこの世界に革命を起こす力。
その力の形はまだ定まっていない、それがどんな形を成すのかはあなた次第。
チャンスは一度だけ、彼方が望んだその時に、それは形を成すから」
零華は僕の質問に先回りして疑問に答えてくれた。
僕が感じるはずの無い痛みを感じる原因、そして与えられた力の質について。
要するに僕は、まだ革命の扉を開く鍵を渡された状態にあるらしい。
だけどまだ一つわからないことがある。
どうすればこのノイズを取り除く事ができるのか――
「なぁ零華、このノイズはどうしたら取り除けるんだ?
これじゃぁ普通に生活を送ることも出来ない……」
今の僕が見ていて痛みを感じないのは、今のところ色彩を感じられる青い空だけ。
これだけを見て生活しろだなんて無理な話だ。
「このノイズはね、もうわかっていると思うけれど色彩を捕らえる事で消えるの」
「色彩を捕らえるってことは、この灰色に色を取り戻していくしかないってことか?
そうやってまわりに色を取り戻して、自分の視界を確保しろってこと?」
「そう、あなたは与えられた力を使い、自分自身で進む道を作り出さなければならない。
ここから先はあなただけが進む道、私はその時々に現れる道案内役でしかない。
私は世界の再生に一切異議は唱えない、あなたの思うままに世界を変えていってくれればそれでいいの。
私はあなたを信じているから、きっと正しい方向へこの世界を導いていってくれると信じているから。
あなたの力はまだ目覚めていない。
手にした鍵を使って扉を開いて、そして歩むべき道を己の前に示して?
それは難しい事じゃない、ただイメージするだけでいい。
あなたが望む世界をイメージして、そしてそれにはどのような力が必要であるかを考えて。
そうすればあなたの力は発現する事ができる」
僕が思い描く世界。
その世界を作り出すに相応しい力。
――イメージ
僕は先ほど同様、床の上に寝転んだまま、目を閉じて思考した。
其処に横たわっていた自分の身体を起こし、辺りを見回せば其処が一目で保健室だと認識できた。
「佐倉が運んだんだろうか?」
時計に目をやり時間を確認する――丁度五時間目の授業が始まった辺りだろうか。
自分の意識はそれほど長い間、あの場所にあったわけではないらしい。
僕はベッドから降りると何気なく、校庭に面した窓へ向かう。
窓は軽く開けられ、其処から吹き込む風にカーテンがなびいていた。
「憂……」
僕は口にしようとした言葉を飲み込み、言葉を改めた。
「空って……、こんなに綺麗だったんだ……」
僕が今まで見上げてきていた空はなんだったんだろう?
空を見る度こみ上げてきた、あの不快な感情はなんだったんだろう?
今まで自分の見ていたものの全てが、偽物だったような感覚。
僕はその空の美しさに、ただただ感嘆とするばかりだった。
そして次に地上へと視線を戻す。
「くっ……」
不意に脳内に響くノイズ。
色彩に溢れていたはずの景色は急激に色を失いモノクロになる。
「っ……、うぁっ……」
脳内に響くノイズは徐々に音量を上げ、それに比例するように痛みを増してゆく。
「なんだ……、これ……」
ノイズは止まない、無駄だと理解しながらも僕は両の耳を塞ぐ。
やはりその行為は意味をなさなかった。
―――頭が割れる
―――脳が浸食される
―――視界から色が消えた
―――もう何も見えない……
僕はあまりもの痛みに耐え切れずその場に倒れこむ。
痛みにうめく声すら出せない、成す術もなく、それが意味をなさぬ行為だと理解しつつも僕は耳を塞ぐ。
止まないノイズに抗う為に、自分に残された最後の手段にすがるようにしてうずくまる。
『このままノイズが止まなかったら僕は死ぬんじゃないか?』
死を予感したその時、視界の端に空が見えた。
その空だけは灰色の視界の中、確かに青かった。
「あれ?」
すると途端にノイズが止み、脳を蝕んでいた痛みも消える。
「ノイズが消えた……、痛みも無い……」
僕は耳を塞いでいた手を離すと、保健室の床の上で大の字になり、
白い天井を見上げながら、その視界の端に青い空を収めていた。
「何で空を見ると痛みが引くんだろう?」
「それはね、この空がこの地上ほど汚されていないからだよ」
彼女は音も立てずに、いつの間にか僕の顔を覗き込むようにして傍に立っていた。
彼女とは夢の中―アレを夢と呼ぶのか定かではないけれど―であった少女の事だ。
名前を零華という。
「大丈夫?」
「今は平気だけど……。
大丈夫、とは言いがたいかな……」
その原因は言うまでも無くあのノイズだ。
「灰色が聞える?」
「ハイイロ……?」
「灰色って言うのはね、あなたが今見ていた景色の事、そしてあなたの感じていたノイズのこと。
この世界は本当はモノクロなんかじゃなくって、色彩で満ちているはずなんだよ……。
今あなたが灰色を感じられるのは、私があなたに与えた力の副産物。
力というのはこの世界に革命を起こす力。
その力の形はまだ定まっていない、それがどんな形を成すのかはあなた次第。
チャンスは一度だけ、彼方が望んだその時に、それは形を成すから」
零華は僕の質問に先回りして疑問に答えてくれた。
僕が感じるはずの無い痛みを感じる原因、そして与えられた力の質について。
要するに僕は、まだ革命の扉を開く鍵を渡された状態にあるらしい。
だけどまだ一つわからないことがある。
どうすればこのノイズを取り除く事ができるのか――
「なぁ零華、このノイズはどうしたら取り除けるんだ?
これじゃぁ普通に生活を送ることも出来ない……」
今の僕が見ていて痛みを感じないのは、今のところ色彩を感じられる青い空だけ。
これだけを見て生活しろだなんて無理な話だ。
「このノイズはね、もうわかっていると思うけれど色彩を捕らえる事で消えるの」
「色彩を捕らえるってことは、この灰色に色を取り戻していくしかないってことか?
そうやってまわりに色を取り戻して、自分の視界を確保しろってこと?」
「そう、あなたは与えられた力を使い、自分自身で進む道を作り出さなければならない。
ここから先はあなただけが進む道、私はその時々に現れる道案内役でしかない。
私は世界の再生に一切異議は唱えない、あなたの思うままに世界を変えていってくれればそれでいいの。
私はあなたを信じているから、きっと正しい方向へこの世界を導いていってくれると信じているから。
あなたの力はまだ目覚めていない。
手にした鍵を使って扉を開いて、そして歩むべき道を己の前に示して?
それは難しい事じゃない、ただイメージするだけでいい。
あなたが望む世界をイメージして、そしてそれにはどのような力が必要であるかを考えて。
そうすればあなたの力は発現する事ができる」
僕が思い描く世界。
その世界を作り出すに相応しい力。
――イメージ
僕は先ほど同様、床の上に寝転んだまま、目を閉じて思考した。
PR
フリーエリア
プロフィール
カテゴリー
リンク
バーコード