2010/02/23 (Tue) 10:49
「此処は何処?」
僕が目覚めた時、其処に広がるのは屋上の風景ではなかった。
吹き抜ける春風も、フェンスの外に見えた風に舞う桜の花びらも、何も見えない。
僕がいるのは何処までも真っ白な、空っぽの空間。
でも此処ではその白さえもが確かな色で、何も無いはずなのに、何かがあるような感覚。
空っぽで死んだような空間なのに、生きているかのような感覚のする不思議な空間。
よくわからない所に来てしまったけれど、取りあえず危険はなさそうだ。
「さて、これからどうしよう……」
この場所が以下に安全な場所であれ、こんな場所にずっとい続けるわけには行かない。
でも、僕はそこで疑問を抱く。
「なんで此処にい続けちゃいけないんだろう?」
僕には此処にいてはいけない理由なんて何一つない、むしろ何もないこの場所の方が僕には似合っているのかもしれない。
他人との干渉に心を病むこともない、嫉妬もしない、仮面を被る事もない、壁を作る事もない。
世界の流れか逸脱しているようなこの場所にいれば、僕はあの世界の強制的な時の流れに苦悩する事もないのかもしれない。
己で流れを進む事の出来ない世界なんて、僕は望んでいなかった。
あの世界では誰もが流れに身を任せる事を自然に受け入れていた。
でも僕は違う、己の力で流れを進む事を望む異端だった。
故にそれに気付いた時、僕は他人と干渉する事が苦手になった。
「あっ、そうか。
僕はだから学校が好きじゃなかったんだ」
何故学校が退屈な場所だったのか、僕は理解した。
学校では流れに身を任せるだけの漂流物達で溢れ返っている。
そして通学という行為自体が流れの一部でしかなかったから。
「あれ? 世界の流れについての答えなんて、とうの昔に出していたような……?
何故だろう? それなのにたった今答えに気付いたような……」
僕は疑問に疑問を重ねた。
自分の思考が、自分のものでありながら自分のもので無いように感じてしまったのだ。
いや……、自分の思考は確かに自分のものだ。
でもいつもと思考の流れ方が違う、あまりにスムーズに考えが纏まりすぎる。
今の自分は明らかにおかしい。
自分が自分でありながら自分ではない。
自分はこんな風に簡単に、物事を割り切れる人間ではなかった――はずだ……。
「でも……、なんだか……」
心のつっかえが取れたような、そんな清々しい気分だ。
今なら空を見上げても、あんな気持ちには望んでもなれないだろう。
そのくらいに心が軽い。
今ならば、自分が抱えていた問題全てに答えを与えられるような、そんな気がする。
「あっ、でも今はこんなことを考えている場合じゃなかったんだ」
僕は瞬時に思考をこの世界の事へと切り替える。
「僕はあの声によってこの場所につれて来られた、ならばあの声の主は?」
それを疑問に思うのは当然といえば当然だった。
あの声が無ければ、僕は此処に来る事は無かったのだから。
声の主に会えたからといって、此処につれてきた事を感謝するとか恨むとかそういうわけではないけれど。
僕は辺りを見回す。
だが其処に広がるのは先程同様、何処までも真っ白な、空っぽな空間。
其処は見様によってはこの場所は雪原にも見えないことは無いな、と感じる。
当然此処には雪も、それを吐き出す灰色の曇り空も無いわけだけれど。
――僕はその何処までも続く白の上に舞い降りる、黒い小さな影を見つけた
「こんにちは」
小さな影は小さく会釈しながら挨拶をする。
そして僕もそれに習うように会釈する。
「わたしはあなたをずっと探していたの」
その影は徐々に輪郭を得ると幼い少女へと形を成す。
「この歪められた世界を再生するために……」
ショートに切り揃えられた銀髪。
金と銀と、左右で違う色の瞳のヘテクロミア。
身に纏う、白いフリルの装飾の施された漆黒のドレス。
「色の無いこの世界に、再び色を与えるために……」
その少女は幼い外見からは想像出来ないほどに妖艶な笑みを浮かべ、そして微笑んだ。
「あなたには今二つの選択肢が在る。
一つは今まで通りの日常に戻る事……」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
僕はもうあんな世界には帰りたくない。
あの日常に戻されるのなら、いっそ死んでしまいたい。
「そしてもう一つは……」
そんなもの、もう一つの選択肢が何かなんて聞かずとも答えは決まっている。
「私と共に来て、世界に色を取り戻す事……」
僕は待っていた……。
世界に変化をもたらす力を……。
僕はあの世界で、あのまま朽ちてはいかないと決意していた。
何も出来ないまま、流されたままで終わりたくは無いと。
人であることをやめても。
人に戻ることが出来なくなろうとも。
この世界に革命を起こすまでは終われない……。
その願いは、今此処に叶おうとしている。
それは確定した未来ではない、今此処から始まる。
「あなたはどっちを選ぶ?」
彼女は相変わらず妖艶な笑みを浮かべたまま僕に問い掛ける。
その問いに僕は――
「君と共に、行かせてもらえるかな?」
僕は今可能性を手にする事を願った。
この世界の全てを覆す権利と力に手を伸ばした。
「ありがとう、あなたならきっとそういってくれると思った」
彼女は嬉しそうに言うと、僕に手を差し伸べる。
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
僕は彼女の小さな手を握り返した。
と、その瞬間白い世界に白い光が広がった。
「君の名前は?」
世界に亀裂が走り崩落を開始する。
「私の名前は――」
崩落する世界の中、僕等は互いがはなれてしまわぬようにと、ぎゅっと手を握りあった。
白い世界の外側には黒い闇。
足場は既に失われ、全ては無に回帰する。
物語の歯車は、ついに動き始めた。
停止していた僕の時計は、時を刻み始める。
チクタクチクタク……。
時を刻む音に、心音が同調する。
身体が闇に沈む。
彼女は微笑む、そして僕も微笑む。
僕は世界に抗う事ができるだろうか?
あの自動的で、強制的な流れに、抗う事ができるだろうか?
僕は可能性を手に入れた。
この世界の全てを覆す権利と力に手にいれた。
さぁ、革命劇を始めよう。
僕が目覚めた時、其処に広がるのは屋上の風景ではなかった。
吹き抜ける春風も、フェンスの外に見えた風に舞う桜の花びらも、何も見えない。
僕がいるのは何処までも真っ白な、空っぽの空間。
でも此処ではその白さえもが確かな色で、何も無いはずなのに、何かがあるような感覚。
空っぽで死んだような空間なのに、生きているかのような感覚のする不思議な空間。
よくわからない所に来てしまったけれど、取りあえず危険はなさそうだ。
「さて、これからどうしよう……」
この場所が以下に安全な場所であれ、こんな場所にずっとい続けるわけには行かない。
でも、僕はそこで疑問を抱く。
「なんで此処にい続けちゃいけないんだろう?」
僕には此処にいてはいけない理由なんて何一つない、むしろ何もないこの場所の方が僕には似合っているのかもしれない。
他人との干渉に心を病むこともない、嫉妬もしない、仮面を被る事もない、壁を作る事もない。
世界の流れか逸脱しているようなこの場所にいれば、僕はあの世界の強制的な時の流れに苦悩する事もないのかもしれない。
己で流れを進む事の出来ない世界なんて、僕は望んでいなかった。
あの世界では誰もが流れに身を任せる事を自然に受け入れていた。
でも僕は違う、己の力で流れを進む事を望む異端だった。
故にそれに気付いた時、僕は他人と干渉する事が苦手になった。
「あっ、そうか。
僕はだから学校が好きじゃなかったんだ」
何故学校が退屈な場所だったのか、僕は理解した。
学校では流れに身を任せるだけの漂流物達で溢れ返っている。
そして通学という行為自体が流れの一部でしかなかったから。
「あれ? 世界の流れについての答えなんて、とうの昔に出していたような……?
何故だろう? それなのにたった今答えに気付いたような……」
僕は疑問に疑問を重ねた。
自分の思考が、自分のものでありながら自分のもので無いように感じてしまったのだ。
いや……、自分の思考は確かに自分のものだ。
でもいつもと思考の流れ方が違う、あまりにスムーズに考えが纏まりすぎる。
今の自分は明らかにおかしい。
自分が自分でありながら自分ではない。
自分はこんな風に簡単に、物事を割り切れる人間ではなかった――はずだ……。
「でも……、なんだか……」
心のつっかえが取れたような、そんな清々しい気分だ。
今なら空を見上げても、あんな気持ちには望んでもなれないだろう。
そのくらいに心が軽い。
今ならば、自分が抱えていた問題全てに答えを与えられるような、そんな気がする。
「あっ、でも今はこんなことを考えている場合じゃなかったんだ」
僕は瞬時に思考をこの世界の事へと切り替える。
「僕はあの声によってこの場所につれて来られた、ならばあの声の主は?」
それを疑問に思うのは当然といえば当然だった。
あの声が無ければ、僕は此処に来る事は無かったのだから。
声の主に会えたからといって、此処につれてきた事を感謝するとか恨むとかそういうわけではないけれど。
僕は辺りを見回す。
だが其処に広がるのは先程同様、何処までも真っ白な、空っぽな空間。
其処は見様によってはこの場所は雪原にも見えないことは無いな、と感じる。
当然此処には雪も、それを吐き出す灰色の曇り空も無いわけだけれど。
――僕はその何処までも続く白の上に舞い降りる、黒い小さな影を見つけた
「こんにちは」
小さな影は小さく会釈しながら挨拶をする。
そして僕もそれに習うように会釈する。
「わたしはあなたをずっと探していたの」
その影は徐々に輪郭を得ると幼い少女へと形を成す。
「この歪められた世界を再生するために……」
ショートに切り揃えられた銀髪。
金と銀と、左右で違う色の瞳のヘテクロミア。
身に纏う、白いフリルの装飾の施された漆黒のドレス。
「色の無いこの世界に、再び色を与えるために……」
その少女は幼い外見からは想像出来ないほどに妖艶な笑みを浮かべ、そして微笑んだ。
「あなたには今二つの選択肢が在る。
一つは今まで通りの日常に戻る事……」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
僕はもうあんな世界には帰りたくない。
あの日常に戻されるのなら、いっそ死んでしまいたい。
「そしてもう一つは……」
そんなもの、もう一つの選択肢が何かなんて聞かずとも答えは決まっている。
「私と共に来て、世界に色を取り戻す事……」
僕は待っていた……。
世界に変化をもたらす力を……。
僕はあの世界で、あのまま朽ちてはいかないと決意していた。
何も出来ないまま、流されたままで終わりたくは無いと。
人であることをやめても。
人に戻ることが出来なくなろうとも。
この世界に革命を起こすまでは終われない……。
その願いは、今此処に叶おうとしている。
それは確定した未来ではない、今此処から始まる。
「あなたはどっちを選ぶ?」
彼女は相変わらず妖艶な笑みを浮かべたまま僕に問い掛ける。
その問いに僕は――
「君と共に、行かせてもらえるかな?」
僕は今可能性を手にする事を願った。
この世界の全てを覆す権利と力に手を伸ばした。
「ありがとう、あなたならきっとそういってくれると思った」
彼女は嬉しそうに言うと、僕に手を差し伸べる。
「よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
僕は彼女の小さな手を握り返した。
と、その瞬間白い世界に白い光が広がった。
「君の名前は?」
世界に亀裂が走り崩落を開始する。
「私の名前は――」
崩落する世界の中、僕等は互いがはなれてしまわぬようにと、ぎゅっと手を握りあった。
白い世界の外側には黒い闇。
足場は既に失われ、全ては無に回帰する。
物語の歯車は、ついに動き始めた。
停止していた僕の時計は、時を刻み始める。
チクタクチクタク……。
時を刻む音に、心音が同調する。
身体が闇に沈む。
彼女は微笑む、そして僕も微笑む。
僕は世界に抗う事ができるだろうか?
あの自動的で、強制的な流れに、抗う事ができるだろうか?
僕は可能性を手に入れた。
この世界の全てを覆す権利と力に手にいれた。
さぁ、革命劇を始めよう。
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