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Deus ex machina
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2024/04/16 (Tue) 15:07
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2010/02/23 (Tue) 10:30
 僕は一人土手に座り込むと煙草を吹かし始め、己の滑稽さに呆れた。
 背後には苦労してバイトして溜めた金で買った念願の400ccのバイク。
 そして其処に立て掛けるようにして置かれた無駄に大きなリュックとバイオリンのケース。
 僕は一体、こんな所で何をしているのだろうかと笑いたくなってしまう。
 今日はふと自分の今の在り方が馬鹿馬鹿しくなって、気付いたら荷造りをして家を出ていた。
 今の僕はただのフリーター、高校を卒業して専門学校にいったけれど中退してしまい家に住み着く寄生虫。
 アルバイトなんかして、就職も探さずに家に居着いて、毎日を怠惰に過ごす、そんな駄目な現代人の象徴だ。
 家に少々の金を入れてはいたけれど、それはやめてしまった専門学校の学費の返済金。
 決して裕福とはいえない家庭で、僕が無理を言って行かせてもらった専門学校の学費なのだ。
 総額は約80万、今年でフリーターになって二年になるが、まだ全額を返済する事は出来ていない。
 なのに中型免許を取ってバイクなんか買って、好き勝手やりながら家でのうのうと暮してた。
 そう思ったらあまりにも自分が情けなくて、あまりにも親に申し訳なさ過ぎて、僕は家を出たくなった。
 家にいても親には僕の将来の心配ばかりをさせるばかりか負荷ばかりを強いてる、そんな環境に耐えられなくなってしまったんだ。
 結局22歳にもなって、独り立ちも出来ずに親に依存してるなんて全く馬鹿げてる。
 友達には既に家庭を持っている奴だっているし、大学で頑張っている奴もいる。
 それに比べて自分はなんなんだ? 何かそいつ等に匹敵するだけのものを持ち合わせていると言えるのか?
 否、そんな事は口が裂けたっていえない、僕はどんなに言い訳を駆使した所で敗北者なのだ。
 僕には何一つ誇れる技能なんてない。
 僕は背後のバイオリンのケースを乱暴に引き寄せるとバイオリンと弓を取り出し、その場で立ち上がり演奏を始める。
 弾いているのは『G線上のアリア』、なんとなく簡単そうだからと言う理由で練習してきた曲だが、独学ゆえかお世辞にも巧い演奏とは言えない。
 けれど僕は演奏を続け自分一人の世界に浸る。
 其処には自分の演奏するバイオリンの演奏と降り注ぐ太陽の日差しと暖かな風、そして日差しを反射して煌く川の流れがあった。
 僕はこの自分だけの世界に存在する孤独に酔いながらひと時の開放を覚える。
 外の世界では僕は他人の重荷になることしか出来ない、惨めで矮小な人間だ。
 だけど今この瞬間だけは誰一人僕を責める存在はいない、僕が誰かの負荷になることもない。
 そして丁度咥えていた煙草が灰になりきる手前で演奏は終了、再度僕は現実に引き戻される。
 本当に、僕は今こんな所で何をしているんだろうなと再度思う。
 大きな荷物を抱えて家を飛び出して、出て行った先は近所の川の土手で、他人の目も気にせずバイオリンなんか弾き始めて。
 でも自己嫌悪だけで家を飛び出したんだし、意味不明なのも納得かと思う。
 これから先、僕は何処へ向かうのだろうか。
 行く宛てはない、とりあえず数日は家を留守にするだろうとか考えてみてる。
 頼りは友人の家か、最悪の場合は野宿だろう。
 今は自分の行動に不可解さを覚えながらも、やはり家に変える気にはなれなかった。
 僕はバイオリンをケースに戻すと咥えていた煙草を地面でもみ消し新たにもう一本煙草を取り出し火をつける。
 すると見えてくるのは眩しくてうざったいだけの太陽の光、生ぬるい風、澱んだ川の流れ。
 そんな景色は、現実なんてこんなものだと僕を嘲笑っているようにも見えた。
 家の負荷になりたくないから家を出るだなんてドラマっぽいことしてみても、結局僕は僕なのだ、ただの厄介者にすぎないんだ。
 僕の事を受け入れてくれる人達はきっと真の好意を示していてくれるのだろうけれど、それが美しすぎるだけに僕には重荷でしかなかった。
 僕はそんなものから逃げたかっただけなのかもしれない。
 好意と言う優しさ、それが齎す温もりが信じられなくて逃げ出しただけなのかもしれない。
 きっとこのままでは自分が駄目になるということがわかっていたから、甘えられてしまう環境を抜け出そうと言う反抗心だったのかもしれない。
 けれどそんな環境で育ってしまった僕は、この先の未来を想像して早くも挫折しようとしている。
 家を飛び出して野宿や友人宅での宿泊を繰り返しても、それは結局親に不安を感じさせる。
 友人宅の宿泊は結局友人の好意に甘える好意に過ぎない。
 僕はこうして家を出てみても、周りに迷惑をかけるだけの存在なのだ。
 結局何一つ変りはしない、他人に依存するばかりの毎日、全く救いがない。
 そんな事を思っていたとき不意に着信が入る、母親からだった。
 けれど僕はその電話を受けようとはせず瞬時に切ると、メールの画面を呼び出して『暫くの間家には帰らない、だけど心配しないでいいから』と母親へメールを送信した。
 そして暫くして数回の母親からの着信があったが、僕はそれが煩わしくて携帯の電源を切った。
 これから僕はどうすればいいのか、そんな思いばかりが脳裏を掠める。
 けれど一向に答えが出る気配もなく、僕はなんだか死にたい気分になった。
 僕は胸ポケットに手を伸ばし、刃渡り12cm程の折りたたみナイフを取り出し暫しそれを眺める。
 これがあれば僕はいつでも死ねる、そう思うと少し気が楽になった。
 苦しくなったならそういう選択肢もあるんだと、そう考える事で少し楽になれた。
 でもそんな事をしたら親は悲しむだろうし、多くの人に迷惑をかけるんだろうなと思うとこれもあまり良い選択肢とは思えなかった。
 しかし、死んでしまえば迷惑をかけるのもそれが最後になるだろう。
 悲しみは残してしまうかもしれないけれど、きっと時間が経てばそんなものは薄れてくれるはずだ。
 だから恐らくは、これが僕の中で最良の選択肢なのだろう。
 そんな事を思った時、何処からかバイオリンの音色が聴こえてきた。
 僕は耳を澄まし、音のする方向に目を向けて演奏者の姿を探す。
 すると其処には長い黒髪を風に靡かせ、真っ黒な長袖のワンピースを身に纏った僕と同い年位の女の子が居た。
 演奏している曲は僕が先ほど弾いていたのと同じ『G線上のアリア』だ。
 彼女は演奏を続けながらもその姿に見入る僕に気付き柔らかな笑みを浮かべた。

「はじめまして、そしてこんにちは」

 彼女は演奏をやめてこちらに歩み寄ると、先程と同じ笑みを返しながら話し掛けてくる。
 黒尽くめの彼女の声はその壊れそうな危うい美しさとは裏腹に、子供みたいな無邪気な声で僕は少々驚いた。
 離れていた時には気付かなかったが、思ったよりも彼女の身長は低い。
 僕と比較してみると丁度頭一個分の差という所だろうか。
 離れていた時に身長が余り気にならなかったのは遠近感と、そのスレンダーな体格からだろうなと思った。

「……こんにちは」

 僕は急な展開に少々戸惑いつつも、何とか声を振り絞って言葉を返す。
 それにしても、まさか僕以外にこんな川辺でバイオリンを弾くなんて奇特な真似をしている奴が他にいるとは思わなかった。
 あれはいつだったか、僕のように川辺にたってトランペットを吹いている人を見た事があった。
 しかしあの時以来こんな所で楽器を演奏している奴なんて見た事がない。
 多分、川辺で楽器を演奏する事自体が奇特な出来事なのだろう。
 そんな中、僕と同じバイオリンを手に現れた彼女は奇特を通り越して異常な気もしてくる。
 奇特な者が偶然二人出会う確立と言うのはどれだけ低いのだろうか。
 然し、妙な存在感を放つこの女の子ならこういうことも普通なんだろうなと、しみじみ感じた。

「こんな所でバイオリン弾く人なんて、自分以外に見た事がなかったから思わず声かけてみちゃったんだけど迷惑だったかな?」

 彼女はなんだか妙に申し訳なさそうに、僕の事を上目遣い(身長的に仕方のない事で彼女にそのつもりはないのだろうが)で尋ねる。

「別に……、迷惑だなんてことはないけど、もう少し警戒した方が良いんじゃないかなと思う……」

 僕は妙に人懐っこく話し掛けてくる女の子に対する戸惑いからか、ちょっと無愛想な態度になってしまう。
 何故この女の子は初対面の人間にこうも自然に話し掛けることができるのだろうか?
 僕なんかこの場所じゃ明らかに不信人物だって言うのに。
 もし僕がこの女の子なら、川辺でバイクとでかい荷物を背にバイオリン弾いて自己陶酔してるような奴に話し掛けたりはしない。
 まだ昼間ではあるけど男と女、何をされるかわかったものじゃないと警戒するものだ。
 でもまぁ……、川辺でバイオリン弾いているっていう共通点はあるわけだけれど。 

「よかった……、でも何故警戒しなくちゃいけないの?」

 けれど女の子は僕の言葉の前半に安堵しながら言葉の後半に疑問を返す。
 全く、随分とずれた子だなと思った。
 僕はため息をつきそうになるのを抑えながら、先程思ったことをそのまま言葉にしてやった。

「普通、初対面の僕みたいな奴にあったら警戒するもんだろう?
 だって僕は自分で言うのもなんだけど、明らかに変な奴じゃないか。
 女ならこんな怪しい奴にはもう少し警戒心を持って話し掛けないものじゃないかと思ったのさ」

「そうかな? 私はそんな怪しい危ない人だとは感じなかったけれど、貴方は私に何かする気なの?」

 しかし女の子はマイペースに質問を返してくる。
 この子に警戒心はないのだろうか?
 
「いや別に……、僕は君に何しようって考えはないけどさ……。
 女としてもう少し警戒するべきなんじゃないかと思ったんだよ。
 これでもし僕が本当に危ない奴だったらどうするの?」

「んー、でもそんな危ない人がバイオリン弾いたりしないだろうし、大丈夫かなって」

 彼女はそう言って僕のバイオリンを指差しながら呟く。

「それは偏見だと思うけどな……、でも白昼堂々と女の子を襲うような品のない奴が弾く楽器ではないね」

 僕はなんとなく彼女の言葉に納得すると、この件に関しては気にせず話の方向を変ようと試みる。

「それで、僕に何か用かな?
 って初対面の奴にいきなり話し掛けて用も何もないか……、たまたま同じような事してる人間見つけたからっていう好奇心か。
 最初にもそんなこといってたしね」

 僕は己のバイオリンを見つめながら、彼女に伝えるというよりも自分を納得させるようにして呟いた。

「此処ではよく弾いてるの?」

「いや、今日はたまたまだよ。
 天気が良かったんでなんとなく外でバイオリンが弾きたくなった、それだけだよ」

 僕は嘘を付いてしまった。
 本当はそんなに前向きな理由なんかじゃなくて、その真逆で呆れるくらい後ろ向きな理由だ。
 けれど初対面の女の子にそんな理由を話せるわけがない、そもそも話してどうなるというのか。
 学校中退して80万の借金背負って、フリーターで毎日のほほんと生活して、400ccのバイクなんか買っちゃって。
 そんな生活してるくせに親に罪悪感とか言って家を飛び出しただなんて、言えるわけがない。
 自ら恥を曝して同情を求めるほど、僕は落ちぶれた人間じゃない、そんな事で満たされる人間じゃない。
 けれど何をするか考えあぐねた結果死んでしまおうかとか考えたり。
 本当はそういうことを忘れようと自分の殻に篭って演奏してたんだ。

「本当にそうかな? 気分よく演奏したにしては随分と哀しい音色だったけどな。
 本当は何か悩んでたりとか、哀しい事があっただとか、そういう要因を抱えていて、それで演奏したんじゃないのかな?
 G線上のアリアは元々そんなに明るく華やかな曲ではないけれど、貴方の演奏はなんていうか……、辛そうだった……」

「なっ……」

 僕は口にしていない真意を読み取られ思わずうろたえる。
 何故さっきの演奏如きで僕の心を見透かすような事が言えたのかと、驚きを隠せない。
 
「何でそんな風に思う……」

 僕は見透かされた事がなんだか辛くてぶっきらぼうに言葉を返す。

「何でも何も、そんなの演奏を聞けばすぐにわかるよ。
 楽器はね、その時のその人の心を音色に反映させるの。
 それはバイオリンに限らず、どんな楽器でもそう。
 どんなに巧く演奏したってそれだけは誤魔化せないから、巧いだけの人間には人を引き付ける演奏が出来ないんだよ。
 本当に良い奏者の演奏は心が篭ってる、それは技術の有無に限らずにね。
 貴方の演奏には心が篭ってた。
 それはとても辛い思いだったのかもしれないけれど、それが私には伝わってきた。
 哀しい演奏だったけど、心の篭った演奏をしていたから私は貴方に声を掛けたの。
 この人なら大丈夫だって、そう直感したの」

 彼女は明朗に語ると、その台詞の最後を柔らかな笑みで締めくくった。
 僕には返す言葉がない。
 彼女の言っている事が偏見だとしても、勝手な憶測だとしても、彼女が今語った事はどうしようもなく僕の真実に触れるものだったから。
 僕は己の左胸に手を当てるとその鼓動を確認する。
 僕の胸は己が理解された喜びと、見透かされている事の戸惑いで高鳴っていた。

「名前、聞いてもいいかな……?」

 僕は次の瞬間、そう呟いていた。
 初対面にも関わらず己の真実に触れてくれた喜びが、彼女を遠くのものにしておきたくないと言う欲求に変った。
 もしかしたら彼女なら自分を理解してくれるかもしれないと、直感的に感じた。
 けれど一瞬、結局それでどうなるんと言うのかと、そんな思いが脳裏を掠めた。
 もし仮に理解者を得て、理解してもらったとして、僕はこの無限ループから救われるのか?
 答えは否、彼女にも結局迷惑を掛けるだけな気がする。
 だからあまり近づきすぎる事を望んではいけないのだと、そう胸に深く決意した。

「私の名前? 私は彩音、彩る音って書くの。
 貴方の名前はなんていうの? 私も名前を教えたんだから聞いてもいい……よね?」

 彩音……、僕はその名前を脳に刻み込むと自分の名を名乗る

「僕の名前は祐己、漢字は……、説明しにくい……」

「祐己か、うん、悪くない名前だね」

「そうかな? ありふれた名前だと思うけれど」

 僕は苦笑混じりに答えるが、彩音は『良い名前だよ』と満足そうな様子でいるので気にしないことにした。
 僕はなんとなく、彼女との距離が縮まったようでそれが少し嬉しい。
 名前を知る事だけでこんなにも喜びがあるなんて始めて知った。
 最初はただの変な女の子だと思っていたが、この短時間でこんなにも彼女に対する認識が変わるのも驚きだ。
 やはり先程心を読み取られた事が切っ掛けなのだろうか。
 僕は心の中で否定しつつも、この感覚が恋にもよく似ていると感じていた。

「んー、そうだ、お互いの名前を知れた記念に何か一曲、一緒に演奏しようよ」

 彩音は僕にバイオリンを取り出すように促すと、そんな提案をした。

「構わないけど、曲はどうするの?」

「んー、そうだね、なんていうかこう元気の出そうな曲がいいよね。
 祐己はちょっと落ち込んでいるようだし、明るい曲ってことでパッヘルベルのカノンなんかどうかな?
 G線上のアリアが弾けるんだったら問題ないよね? 有名な曲だし弾いた事あるよね?」

「カノンか……、確かにあれは明るい曲だね。
 あれなら確かに僕も弾けるし二人で弾くにも悪くないかもしれないね」

 パッヘルベルのカノン、悪くない選曲だと思う。
 けれど今の微妙な気分にはちょっとそぐわない曲だなと感じながらも僕は彩音の提案に頷いた。
 こんな気分だから弾かないのではなく、こんな時だからこそ明るい曲で気を紛らわせるべきなのかもしれない。
 その点に於いて彩音の提案は最良の選択だったと言えるのかもしれない。

「それじゃ、主旋律は祐己に任せるから、明るく元気に弾こう」

「わかった、それじゃ始めるよ?」

 僕はバイオリンを構え、彩音もバイオリンを構える、そして『せーの』という掛け声で調子を取って弓を引く。
 序盤から中盤に掛けては優しく弓を引き、馴染みのフレーズに差し掛かったところでクレッシェンドを効かせて力強く演奏する。
 
「中々良い感じだね、まだ迷いは晴れてないみたいだけど、さっきよりはいい感じだよ」

 彩音が演奏しながら呟いた。
 そして僕はそれに無言で、演奏でその言葉に答える。
 明るく、澱み無い演奏を心がけ、出来る限りの力を尽くして演奏に勤める。
 僕は今、独奏曲(アリア)では無く協奏曲(コンチェルト)の中にいる。
 この音の世界には僕と彩音の二人だけ。
 持ちつ持たれつ、互いがそれぞれのパートをこなして互いを補い合ってる。

「あぁ、そうか……」

 僕は演奏を続ける中で一つ気付いた。
 僕は迷惑になるから消えなきゃならないんじゃなくて、迷惑をかけたならその相手に恩返しをしてあげれば良いんだ。
 それは僕が迷惑を掛けてしまった瞬間ではなくて、相手が本当に困っているその瞬間に助けてあげられれば良いんだ。
 互いで互いを補い合えば、僕の与えたマイナスは返していけるんだ。
 焦る事は無い、互いのリズムに、互いのテンポに合わせていけば良い。
 一人先走る事なんか無いのさ、今こうして補い合うように、僕には僕の、相手には相手のメロディーがある。

「でもそれってあまりに安易過ぎる結論だよな……」

 僕は今の演奏に強引にこじつけたような自分の答えに少々呆れる。
 きっとそれは真実じゃない、これは今だけの思い込み、きっと後で覆されて同じループに還ってくる。
 そんな気がしてしまうのは、僕がネガティヴ過ぎるからだろうか?
 そんな事を考えながら演奏を続け、気付けば記念の演奏会は幕を閉じていた。

「結局最後は空元気な演奏になっちゃってたね……」

 彼女は僕のそんな心情をまたも察したのか、苦笑いを浮かべた。

「ごめん……」

 僕はなんだかそんな自分がとても情けなく感じて謝罪した。

「謝る事なんて無いよ、こんな時は悩むだけ悩んだ方がいいのに、無理に元気付けようとした私の方が悪いんだから……。
 何が会ったのかは聞かないけど、祐己には早く元気になって欲しいな。
 祐己は久し振りに出会った心の篭った演奏を出来る人だからさ、元気な演奏を聴かせて欲しいんだ」

「彩音は僕の事を買い被り過ぎだよ。
 僕の演奏なんてたかが知れてる、我流で荒削りな技術の欠片も無い演奏だよ」

「そんな事無い。
 さっきも言ったけど良い演奏って言うのは技術だけでは叶わないものなんだよ。
 祐己は今とても落ち込んでるんだと思うけど、あまり自分の事を悪く言わないで、私も辛いから」

 僕は何故こんなにもネガティヴ入っているんだろうか?
 彩音が気遣いの言葉を掛けてくれるたび、妙に反抗してネガティヴになりたくなる。
 もしかして、僕は彩音の同情を欲してしまってるんだろうか?
 僕は同情など欲しないと、同情なんかで満たされないと決意していたのに……。
 彩音が自分に同情してくれることを酷く嬉しく感じている。
 これは彩音が特別だからなのか、単に僕の中の決意が鈍ったからなのか、それの判別はつかない。
 そうこうしている間に彩音は別れを告げる。

「私はもう帰るけれど……、また会えるかな?」

「多分……、ここにくればまた会えると思う」

 僕に行くあてはない。
 遠く離れた街に行ったところで何一つ変らないと感じている間はこの街に留まり、またこの場所を訪れる事もあるだろう。
 すると彩音は「わかった」と小さく呟くと駆け出し、途中で振り返り僕に別れの言葉を投げかける。

「またね!」

「あぁ、またな」

 僕は弓を持った右手を上げそれに答えると、再びバイオリンを構えG線上のアリアを演奏し始める。
 独奏は慣れていたはずなのに何故かとても悲しくなってきて涙が溢れる。
 僕は悲しさに震えながら弓を引く。
 その音色は確かに、僕の心情を映すかのように弱々しく悲しげに響いてた。
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